大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成5年(ワ)399の5の1号 判決

神戸市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

井関勇司

右同

後藤玲子

井関勇司訴訟復代理人弁護士

内橋一郎

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

大和証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

堀弘二

右同

浦野正幸

主文

一  被告は、原告に対し、金一二二万円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金七五三万七一九九円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告の違法行為ないし被告の従業員の違法な勧誘によりワラント取引を行った結果、金九〇四万七一三七円の取引差損を被ったとして、民法七〇九条又は同法七一五条一項、七〇九条に基づき、右損害の内金七五三万七一九九円の賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、文中掲記の証拠によって容易に認められる。

1  当事者

(一) 原告(明治四四年○月○日生)は、平成元年当時七七、八歳の女性であり、旧制女子専門学校を卒業後、Bと婚姻し、婚姻後は専業主婦として家事に携わり、Bの死後は主としてその遺産で暮らしており、職業に就いたことはなかった(甲E六、五六、原告本人)。

(二) 被告は、肩書地に本社を有し、有価証券の売買等の取引を行う総合証券会社である。

C(以下「C」という。)は、昭和四七年四月に被告に入社し、昭和六〇年一月ころから被告神戸支店に配属され、それ以来昭和六二年五月に転勤するまでの間、原告との取引を担当していた。Cは、現在被告千住支店に勤務している(乙E五八、証人C)。

D(以下「D」という。)は、昭和四七年四月に被告に入社し、昭和六一年七月ころから被告神戸支店に配属され、昭和六二年一月ころから平成元年七月ころに転勤するまでの間、原告との取引を担当していた。Dは、現在被告新宿支店の支店長の職に就いている(乙E五九、証人D)。

E(以下「E」という。)は、昭和五七年四月に被告に入社し、平成元年七月ころから被告神戸支店に配属され、それ以来平成七年六月末に転勤するまでの間、原告との取引を担当していた。Eは、現在被告浜松支店で勤務している(乙E八、証人E)。

2  原告の投資経験

原告は、昭和三八年ころから当時の大阪屋証券であるコスモ証券株式会社(以下「コスモ証券」という。)と、昭和四七年ころから被告と、昭和六〇年ころから岡三証券株式会社(以下「岡三証券」という。)とそれぞれ証券取引を開始し、それ以来自己名義及び親族名義で株式、転換社債、投資信託等の証券取引を継続していた。

3  原告の本件ワラント取引

原告は、昭和六一年四月一〇日以降、被告神戸支店においてC、D及びEを介し、別紙「ワラント取引状況」記載のとおりの各ワラント(以下、順に「伊藤ハムワラント①、伊藤ハムワラント②、TDKワラント、京セラワラント、西華産業ワラント、日本電装ワラント、・・・(以下同じ)」という。右各取引により購入したワラントをまとめて「本件ワラント」ともいう。)の購入並びにこのうちトヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント及び三和シャッターワラントを除くワラントの売却の取引を行った。

トヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント及び三和シャッターワラントについては、売却しないまま権利行使期間が経過した。

本件ワラント購入時に原告が支払った代金の合計額から、原告が売却したワラントについて受領した代金の合計額を差し引くと、金九〇四万七一三七円となる(乙E三、七、一四、証人C、同D、同E、原告本人)。

二  主要な争点

1  ワラント取引勧誘自体の公序良俗違反の有無(争点1)

2  本件具体的勧誘行為における違法行為の有無(争点2)

(一) 適合性の原則違反の有無

(二) 説明義務違反の有無

(三) 断定的判断の提供の有無

(四) 一任売買、過当取引の有無

(五) 情報提供、助言義務違反の有無

3  消滅時効の成否(争点3)

4  損害額(争点4)

三  争点に関する原告の主張

1  ワラント取引の背景には、次のような危険性、問題点がある。

(一) 証券会社の優越的地位

証券会社は免許制であり、必要な基準や条件を満たして免許を受けた証券会社は、その存立の根本からして専門的基盤を有しており、証券取引についての知識、経験、情報の収集、利用、判断すべての面において、一般投資家に比してはるかに優越した地位にある。

(二) 顧客の証券会社に対する信頼の悪用

一般投資家は、公的な免許を取得して証券業を営む証券会社は公正かつ誠実な業務遂行を行うものと信頼している。

(三) ワラントの新規性、非周知性

ワラントは、株式や社債などの旧来の金融商品とは全く異なる商品構造を有し、昭和六一年一月一日から外貨建てワラントの国内での取扱いが解禁されたものであり、市場そのものにとって未経験の商品であったうえ、新聞等に掲載されるようになった平成二年ころまで、一般投資家が目にしうる雑誌、新聞等にはワラントに関する記事はほとんどなかった。

(四) ワラントの超ハイリスク性、難解性

ワラントには、価格変動は基本的に株価に連動するもののその数倍の値幅で変動する性質(ギヤリング効果)を有すること、権利行使期間の経過により無価値になること、権利行使期間内でも無価値になることがあること等の危険性がある。

また、その商品構造は非常に難解かつ複雑であり、これを一般投資家に理解させるのは容易ではない。

(五) 証券会社にとっての構造的うまみ

証券会社は、ワラント債発行に際して、幹事会社として発行業務を主催することにより発行手数料を、ワラント債発行により引き受けた外貨建てワラントを一般投資家に売却する際に売買益を、ワラント債発行により資金調達した企業が資金運用のために証券投資するに際して売買手数料を、それぞれ手にすることができる。

(六) 公正な価格形成が制度的に保障されていないこと

外貨建てワラント取引は、顧客と証券会社との相対売買であって、価格形成過程は不透明であり、公正な価格形成が制度的に保障されていない。

(七) 価格の周知方法が講じられていないこと

外貨建てワラントの価格情報は、平成元年四月までは新聞紙上等に一切公表されておらず、それ以後も、平成二年九月ころから日本経済新聞等に限定された銘柄の気配値がポイントで表示される程度で、一般投資家の投資判断材料としての価格情報は全く不十分であった。

(八) 証券の内容が一般投資者には全く理解不能であること

外貨建てワラントは、その原券自体入手することが困難であるうえ、その証券券面は、全文が専門的英語で記載されており、一般投資家が自ら読解することは不可能であった。

(九) 実質的な国内募集・売出しであること

本件の外貨建てワラントは、形式的にはヨーロッパ市場で発行されたものであるが、その全部又はほとんどが計画的に直ちに日本で消化されており、実質的には国内発行と同視できるものであって、大蔵大臣への届出や目論見書の作成等の証券取引法上の規制の潜脱行為である。

2  ワラント取引自体の公序良俗違反(争点1)

外貨建てワラントは前項で述べたとおり欠陥商品といっても過言ではない証券であるにもかかわらず、証券会社は、その構造的うまみに目を付け、証券取引法を潜脱し、証券会社と一般投資家との証券取引の知識、情報量の圧倒的差異を利用して、一般投資家の利益を顧みずに外貨建てワラントを大量かつ強引に売りさばいたのである。

このような勧誘・販売行為は、社会的に許容された相当性を逸脱し、公序良俗に反する違法な行為である。

3  本件具体的勧誘行為における違法行為(争点2)

(一) 適合性の原則違反

(1) 証券会社は、顧客の資力、能力、意向に適合した投資勧誘を行うべきである(適合性の原則)。

前記(第二の三1)のようなワラント取引の問題点、危険性を考慮すると、ワラント、特に外貨建てワラントについては、自らワラント取引の仕組みとリスク、適正価格等について積極的に研究するだけの能力と意向を有し、ハイリスクに耐え得るだけの資金的余力を有するような投資家、すなわち機関投資家や大手会社の財務部門、特殊な個人投資家等投資のプロのみが取引資格者といえるのであり、原告のような一般投資家にワラント、特に外貨建てワラントを勧誘することは、適合性の原則に違反する違法な行為である。

(2) 原告の証券取引経験は短くはないが、自ら証券取引情報を集め、取引対象を選ぶだけの能力はなく、専ら証券会社担当者の推奨を受け入れて取引をしていたものであり、事実上の一任取引を行っていた。原告の過去の証券取引中投機的な取引があるとすれば、これは証券会社担当者の無断又は一任取引の結果であり、原告自身の投資傾向を示すものではない。

原告の投資目的は、夫の死亡した昭和五一年以降は夫の資産を運用し、自己の老後資金に充てるとともに、遺産の目減りを防いで本人の死後は子へこれを引き継ぐことにあった。

以上によれば、原告にワラントのような新奇かつ難解で周知性がなくハイリスクな商品取引に耐える適格性がないことは明らかである。

(二) 説明義務違反

(1) 前記(第二の三1)のようなワラント取引の問題点、危険性を考慮すると、証券会社は、顧客をワラント取引に勧誘するに際しては、取引開始時に取引説明書を交付し、直接口頭でワラントの商品構造、取引形態や危険性等につき本人にわかるように説明し、本人がそれを理解してリスク等につき納得したことを確認する作業として確認書を受け取る義務がある。そして、個別のワラントの勧誘に際しては、当該ワラントの具体的内容を説明する義務がある。

(2) 原告は、伊藤ハムワラント①及び②の取引をしていたという認識は全くなかったのであり、右各ワラント買付けに先立ち、なんらワラントに関する説明を受けていなかった。当時被告神戸支店従業員で原告の担当者であった証人Cは、伊藤ハムワラント①及び②の買付けに際し、原告に対してワラントについての説明をしたと供述するが、仮に右供述どおりの説明がなされていたとしても、その説明は、ワラントの権利行使方法、ハイリスクであること、相対取引であることなどについて触れておらず、不正確かつ不十分なものであったし、ワラントに関する資料を示して説明したものではなかった。

原告は、Cの後に原告の担当者となったDからもなんらワラントに関する説明も取引説明書の交付も受けておらず、確認書は郵送により徴求されたものである。被告が交付したと主張する取引説明書の内容は、ワラントの利点を強調し、リスクの説明が不十分であった。また、個別のワラント取引についても事実上の一任勘定取引であり、権利行使価格、行使期間、株価などの説明はなされなかった。

Dの後に原告の担当者となった証人Eは、原告に対してワラントについて説明したと供述するが信用できず、また、右供述によっても、その説明はすべて電話によるものであり、内容も不正確、不十分であった。

被告は、ワラント取引のあった顧客すべてに対し、平成元年一〇月中旬ころから、毎年一回ワラントに関する取引説明書を交付していると主張するが、右主張の真実性は極めて疑わしいし、右取引説明書の記載内容は不十分なものであった。原告の署名押印のある確認書は、ワラントに関する取引説明書とは別個に郵送により徴求されたものである。

(三) 断定的判断の提供

Dは原告に対し、TDKワラントの購入を勧める際、「とにかくいいから買って、絶対です。」などと言った。また、その後のワラント取引においても、清永及びEは勧誘時に常に「もうかります。」と断定的判断の提供をなした。

(四) 一任売買、過当取引

一任売買は、顧客の意思が反映されない反面において、証券会社従業員が顧客の勘定に対する支配権を濫用し、数量、頻度において過当な取引が行われがちであることから、証券取引法等により規制されてきた。

本件ワラントの取引は、いずれも実質的にはすべて被告担当者が決定していたのであり、しかも、その取引状況は別紙「ワラント取引状況」のとおりであり、昭和六一年四月から平成二年五月までの間に合計三六回ものワラント取引を行っていたものであるから、被告が売買による利ざやを得ることを主たる目的として行われた過当取引であり、違法なものというべきである。

(五) 情報提供、助言義務違反

ワラントの価格形成要因が極めて複雑であること、ワラントの価格の開示が不十分であること、顧客と証券会社との情報量、知識、分析力の格差を考慮すれば、証券会社は顧客に対し、推奨して購入させたワラントについて情報提供及び適切な助言をすべき信義則上の義務がある。

Cは、原告に伊藤ハムワラント①及び②を購入させてこれを放置し、損害を拡大させたが、適切な助言があれば損害の拡大を防ぐことができた。

Eは、売り付けたワラントの価格について原告からの問い合わせがあるまで知らせなかったし、平成二年以後は、利益が出ているワラントについてのみ価格情報等を報告し、値下がりしているワラントについてはなんら報告をせず、適切な時期に売却を勧めることもしなかった。

4  被告の責任

以上のC、D及びEの違法行為は被告の営業行為そのものであるから、被告は民法七〇九条により不法行為責任を負うし、また、C、D及びEの違法勧誘行為は被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は同法七一五条一項、七〇九条により使用者責任を負う。

5  消滅時効の成否(争点3)について

被告は、伊藤ハムワラント①及び②の取引差損相当額の損害賠償債権については時効により消滅していると主張する。

(一) しかし、被告は、平成五年九月七日の本件口頭弁論期日に陳述した同日付け準備書面において、原告が伊藤ハムワラント①及び②によっても損害を被った旨を主張しているが、右主張は損害賠償債務の承認(民法一四七条三号)と評価しうる。

(二) 右消滅時効の援用は権利濫用である。

(三) 仮に右損害賠償債権(金三六二万六七一一円)が時効により消滅しているとしても、伊藤ハムワラント①、②、トヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント及び長瀬産業ワラントを除くワラントの取引により原告に生じた利益(合計金二一四万二五一〇円)との間で相殺がなされるべきであるから、右時効によって消滅する損害額は、右相殺後に残る差額金一四八万四二〇一円にとどまる。

6  損害(争点4)について

原告は、被告又はC、D及びEの右不法行為により本件ワラントの取引を行い、前記「前提となる事実」3記載のとおり金九〇四万七一三七円の取引差損を被ったから、同額が損害である。

四  争点に対する被告の主張

1  ワラント取引一般について

(一) 自己責任の原則

一般に証券取引は利益追求を目的とする以上、本来的に危険を伴うものであり、証券会社が投資家に提供する情報、助言等も、経済的情勢や政治状況等の不確定要素に基づく将来の見通しに依拠せざるを得ず、投資家は、証券会社からの情報、助言等を参考にするとしても、自らの責任で当該取引に関する危険性の有無、程度あるいはその危険に耐えるだけの財産的基礎を有するかどうか等を判断し、当該取引への参加、不参加あるいは参加する場合の取引内容等を決定しなければならない。

(二) ワラント取引の利点

ワラントは、会社の資金調達方法と国民の資産運用方法の多様化を図るために昭和五六年の商法改正により制度化された有価証券であって、株式の現物取引と比べて少額の投資資金で大きな利益を得ることができること、株式の信用取引と比べて中長期的投資が可能であること、損失は投資額に限定されていることなどのメリットを有している。また、ワラントは他の商品と全くかけ離れた異質なものというわけではなく、ある程度の投資経験を有するものであれば、その商品性やリスク等を理解し、投資の是非につき判断することは十分に可能である。

2  本件具体的勧誘行為における違法性の有無(争点2)について

(一) 適合性の原則違反の有無について

(1) 適合性の原則は公法上の考え方であり、これに違反した行為が直ちに民事法上の不法行為を構成するものではない。投資の適合性は第一次的には投資者自身が判断すべきであり、証券会社の投資勧誘においてこれが問題となるのは、証券会社がそれまでに認識していた事実に基づき判断したとしても、明らかに適合性を欠く取引を積極的に勧誘したと認められる場合に限られるべきである。

(2) 原告は、平成元年までに二〇年以上の長期間にわたって証券取引を続け、昭和六三年一一月から平成元年一二月までの間の株式の買付金額は、毎月金一〇〇〇万円以上、多いときには金五〇〇〇万円前後に及んでおり、平成元年三月から翌二年三月までのワラントの買付け金額は株式の買付金額の約三割にすぎなかった。取引内容を見ても、原告は、リスクの大きい株式(無配や仕手性の強い株式など)や信用取引にも応じていたのであり、その投資傾向は利潤追求指向が極めて強いものであった。また、原告の投資状況をみると、原告が相場環境を十分に考慮しながら取引していたことが窺われる。原告は、証券取引をするに当たり、電話や面談によって担当者から商品内容や相場環境などについて詳しく説明を受け、その内容を吟味したうえ、自らの判断で取引するかどうかを決めていたのであって、豊富な投資経験と実践的な知識を有していた。

以上によれば、原告がワラント取引についての適合性を有していたことは明らかである。

(二) 説明義務違反の有無について

(1) 証券取引においては顧客の自己責任の原則が妥当するから、顧客が合理的な判断をすることを阻害するような投資勧誘は禁じられるとしても、証券会社が顧客の調査や判断を積極的に援助すべき義務はなく、商品内容を説明すべき法的義務はない。

ワラントについては、ハイリスク、ハイリターンの商品であるとの説明を受けさえすれば、顧客はワラントの内容につきさらに詳しく質問し、又は自ら調査することにより、ワラント取引に伴う危険性について正しい認識を形成することが十分に可能であるから、説明義務が認められるとしても、ワラントがハイリスク、ハイリターンの商品であることについて注意を促す程度で足りると解すべきである。

(2) Cは、原告が昭和六一年四月に伊藤ハムワラント①を購入するに際し、資料を持参して原告方を訪問し、ワラントの一般的な商品内容として、ワラント価格は株価に連動するがその幅は株価以上に大きいこと、権利行使期限があり、これを過ぎるとワラントは無価値になることなどを説明したうえ、伊藤ハムワラント①の内容として、外貨建ワラントであること、権利行使価格、権利行使期限、株価、業績、権利行使株数、払込金等を説明した。

Dは、昭和六二年二月の伊藤ハムワラント①及び②の売却に際し、被告神戸支店のの応接室で原告と面談するなどしてワラントの商品内容やその値動きの特徴、伊藤ハムの株価とワラント価格の推移などを詳細に説明した。また、Dは、原告が平成元年五月にワラント取引を再開するに当たり、電話あるいは来店時に応接室で面談して、ワラント取引では多額の損失を被る場合もあること、投資家の決断が要求されること、ハイリスク、ハイリターンの取引であることなどを指摘しながらワラントの商品内容やその値動きの特徴を改めて説明した。その際、Dは原告に対し、ワラントのパンフレットを交付した。また、被告は、Fに対し、平成元年一〇月中旬以降、毎年一回取引説明書を郵送している。

Eは、原告が平成元年七月にニチイワラントを購入するに当たり、電話で一般的なワラントの商品内容やニチイワラントに関する情報を詳細に説明した。

このような被告やその担当者らによる口頭ないし書面による説明によって、ワラントの商品内容についての説明義務は十分に尽くされていた。

(三) その他の違法行為の有無について

C、D及びEは原告に対して断定的判断の提供によるワラント取引への勧誘などはしていない。

原告の被告における証券取引は実質的にも一任取引ではなく、ワラントの買付金額は原告の証券取引全体からみればさほど大きい割合を占めるものではなかったから、過当取引ではなかった。

Eは、平成二年以降も原告に対し、ワラントの価格や売却した場合の金額を知らせ、また、大きく値下がりしたワラントの売却を勧めたこともあったのであり、被告に情報提供、助言義務違反はない。

3  消滅時効(争点3)について

原告は、本訴を提起した平成五年三月一二日において、伊藤ハムワラント①及び②の取引差損相当額の賠償請求をすることが可能であった。また、被告は、平成五年九月七日の本件口頭弁論期日において、伊藤ハムワラント①及び②を含む本件ワラントの取引状況を記載した準備書面を陳述したのであるから、原告は、遅くともその時点で伊藤ハムワラント①及び②の取引差損を知り、右取引差損相当額の賠償請求をすることが可能であった。

しかるに、原告は、平成一〇年二月二〇日に至るまで伊藤ハムワラント①及び②の取引差損相当額の賠償請求をしなかった。

よって、右不法行為に基づく伊藤ハムワラント①及び②の取引差損相当額の損害賠償債権は、平成五年三月一二日又は同年九月七日を起算点として、三年目の平成八年三月一二日経過時又は同年九月七日経過時に時効により消滅した。

被告は、本訴において右時効を援用する。

第三争点に対する判断

一  ワラントについて

証拠(甲一五の1、2、一六、一九、二〇、四〇~四七、四九、乙五~七、二三、乙E九四)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  ワラントの意義

ワラントとは、新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされる新株引受権ないしこれを表章する証券のことであり、発行会社の株式を予め定められた期間(権利行使期間)内に、予め定められた価格(権利行使価格)で、決まった数量を購入(引受)できる権利又はこの権利が表章された証券である。

2  ワラントの特徴

(一) ワラント価格は、理論的価値(パリティ)と株価値上がりへの期待(プレミアム)からなる。

ワラントの理論的価格は原則として株価に連動するが、その変動幅は株価のそれより大きい(ギヤリング効果)し、またプレミアム部分も不安定である(価格変動リスク)。

(二) ワラントは、発行時に定められた権利行使期間を過ぎると権利行使できなくなり、その価値がなくなる(権利失効リスク)。

また、権利行使期間経過前でも株価が権利行使価格を超える見込みがない場合には価値がなくなり、その可能性は、権利行使期限が近づくにつれて高くなる。

(三) 外貨建てワラント価格は、為替変動の影響を受ける。

(四) ワラントは、平成元年ないし二年当時、比較的新しく、周知性の低い商品であり、また、外貨建てワラントの取引形態は、証券会社と顧客との相対取引であり、価格形成の不明朗、価格情報の不足、売却が困難な場合があることなどが指摘されている。

3  ワラントの特徴として以上の各事実が挙げられるところ、このうち重要なのは、価格変動リスクと権利失効リスクであり、ワラント取引は、株式の現物取引に比べてはるかに大きな利益をもたらす場合もあれば、逆に投資額全額の損失をもたらす場合もある(ハイリスク、ハイリターンな取引)。

二  ワラント取引自体の公序良俗違反の有無(争点1)について

ワラントは、前項のような特徴を有し、大きな危険を伴うものではあるが、商法が分離型新株引受権付社債の発行を認め、証券取引法上もワラントの取引が予定されていること、少ない投資額で大きな利益を得る可能性があり、生じ得る損失も最大限で投資額に止まるという点で金融商品としての合理性を有すること、前項のようなワラントの特徴も説明を受けることなどにより一般投資家にとって理解可能であると考えられることからすると、一般的に、証券会社が一般投資家を対象として行うワラント取引それ自体が公序良俗に反するものとは認められない。

そして、本件全証拠によっても、被告のワラント取引それ自体について、これを公序良俗に反する行為と認めることはできない。

三  本件ワラントの取引経過等について

1  前記「前提となる事実」及び証拠(甲E一~七、九、乙一~九の1、一七~二一、二五、乙E一~九〇、証人E、同C、同D、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告の証券取引一般について

(1) 原告は、昭和三八年に当時の大阪屋証券であるコスモ証券と、昭和四七年に被告と、昭和六〇年に岡三証券とそれぞれ証券取引を開始し、それ以降、自己名義並びに長男G、その妻H及び次男Fその他の親族合計約一〇名の名義で、国内株式、海外株式、投資信託及び転換社債等の取引を頻繁に行っていた。原告は、平成元年当時、被告に対して約金二〇〇〇万円、コスモ証券に対して約金一億円を預託しており、昭和六二年から平成二年までの間のコスモ証券、岡三証券及び被告における株式、投資信託、転換社債及びワラントの買付け合計額は、金九億円を上回っていた。

(2) コスモ証券の原告名義の口座では、昭和四〇年前後及び昭和六二年ないし平成元年ころに株式の信用取引がなされている(原告が主体的に行ったか、被告担当者が無断で行ったかについては争いがある。)。右昭和四〇年前後の信用取引では大きな損失が生じており、この出来事から、原告は信用取引の危険性を十分に認識した。

(3) 原告は、証券会社の担当者が勧める銘柄については、担当者に対し質問をするなどして慎重に検討し、有望な銘柄であると納得してはじめて購入を決定し、納得しない場合には購入しないのが常であり、勧誘に応じるよりもむしろ断ることの方が多かった。また、原告の方から銘柄を指定して注文することはもとより、担当者に対し他社から勧められた商品について意見を求めることもあった。原告は、担当者が交代した場合、すぐには新しい担当者の勧めに従って商品を購入することはなく、しばらく様子を見てその担当者が信頼できると思えるようになってからその勧めに従って商品を購入するようにしていた。

また、原告は、株式等の商品を購入した後、本券を証券会社に預けておくと悪用されると考えており、預り証の交付を受けるとほとんどの場合は証券会社から本券を出庫し、これを貸金庫で保管していた(稀に預り証を家で保管することがあった。)。

(4) 原告は、週に二、三回、三宮及び元町近辺の散策の途中でコスモ証券神戸支店や被告神戸支店に立ち寄り、カウンターにいる女性従業員と世間話をしたりするほか、株価等の情報を収集したり代金や預り証等の受渡しを行い、担当者と面談することもあった。

(二) Cの担当したワラント取引

(1) Cは、昭和六〇年一月ころから被告における原告の担当者となったが、その後しばらくの間原告は被告においてあまり取引をしなかった。

しかし、原告は、同年一一月ころから再び被告において株式及び投資信託を中心に頻繁に取引を行うようになった。

(2) Cは、昭和六一年一月に国内でワラントが販売できるようになったことから、同年四月九日午前九時ないし一〇時ころ、原告に電話し、新しい商品としてワラントを紹介した。Cが顧客にワラントの購入を勧めたのは、原告が初めてであり、その後五人から一〇人の顧客にワラントの購入を勧めたが、実際に購入したのは原告のみであった。

Cは、電話によりワラントの商品性についての概要を説明したが、原告がはっきり分からないと返答したため、同日の夕方から夜ころ、原告宅を訪問して再度ワラントについて説明した。その際、Cは、ワラントの一般的な商品性について説明し、ワラントの価格が株価と連動して上下するが、その上下幅は株価より大きく、株式の購入代金より少額な資金で利益が上がることなどについてワラントの有利性を強調しつつ説明し、ワラントが権利行使期間経過後は無価値になることなどの危険性については原告がその重大性を認識できるように十分に説明することをしなかった。これに対し、原告もワラントがどのような危険性を有するかについて関心を持って注意深く聞くことはなく、また、特に質問をすることもなかった。

Cは、右説明に加えて伊藤ハムワラントを原告に勧め、伊藤ハムの業績がよいこと、株価の上昇が見込めることなどを説明した。伊藤ハムの当時の株価は金八二〇円くらい、伊藤ハムワラントの権利行使価格は金七七七円、権利行使期限は平成三年四月四日であった。原告は、Cの勧めに従い、原告名義、G名義及びF名義のパトナム・インターナショナルの投資信託を売却し、その代金で伊藤ハムワラントを購入することに決め、昭和六一年四月一〇日、伊藤ハムワラント①を原告名義で金八七三万六〇〇〇円(単価三二ポイント)で購入した。

(3) その後、伊藤ハムの株価及びワラント価格は一旦下がり、株価は同年五月一七日に底を打って上昇し始めたが、ワラント価格は下がったままであったことから、Cは、右状況を説明し、原告に伊藤ハムワラント①と同時発行のワラントを買い足して買値の平均値を下げるいわゆるナンピン買いをすることを勧めた。原告は、これを承諾して、同月二九日、伊藤ハムワラント②を原告名義で金八一一万七七六〇円(単価三〇・二ポイント)で購入した。

(4) 昭和六一年七月ころ、伊藤ハムの株価は一旦上昇したが、すぐに落ち込み、ワラント価格も下落した。この間、原告は、Cから伊藤ハムワラントの価格が下落して原告が損失を出していることを何度か聞いており、そのころ以降、被告における新しい投資信託や株式の購入を控えていた。

(三) Dの担当したワラント取引

(1) 被告における原告の担当者は、昭和六二年一月ころ、CからDに代わった。原告は、伊藤ハムワラントの価格が下がっていることにつき何度かDに苦情を述べた。Dは、最初は伊藤ハムの株価の動きを見て対応を考えようと述べていたが、その後、株価が金九〇〇円程度まで回復してきたことから、早いうちに伊藤ハムワラント①及び②を売却してその代金で大和証券の株式を買うのがよいと勧め、原告もこれに応じ、同月五日、伊藤ハムワラント①及び②を金一三二二万七〇四九円(単価二二・五ポイント)で売却した。原告は、伊藤ハムワラント①及び②の取引により、金三六二万六七一一円の損失を被ったが、右売却代金により購入した大和証券の株式を昭和六二年三月九日に売却し、約金三〇〇万円の利益を得た。

(2) その後、原告は、Dに対し、友人が新発ワラントで利益を得ているらしいので自分も新発ワラントを購入したい旨希望した。Dが原告に対し、TDKの業績、株価の動き、ワラントの購入価格等を説明したうえ、TDKワラントが新発ではないが有望であると勧めたところ、原告はこれに応じ、平成元年五月一八日、TDKワラントをF名義で金三二五万〇三五〇円(単価四六・五ポイント)で購入した。

原告は、TDKワラントの買付けの際、ワラント取引に関する確認書(乙E六)に自らF名義で署名し、原告の印鑑で捺印したうえ、被告に郵送した。それに先立ち、原告は被告から「分離型ワラント」と題するパンフレット(乙五、以下「ワラントのパンフレット」という。)を受領したが、目を通すことはしなかった。右ワラントのパンフレットには、ワラントの意義や魅力についての説明などが記載されていたが、危険性につき注意喚起する部分はなく、ワラントの魅力についての説明の中で小さな文字でギヤリング効果や権利行使期間経過後に無価値になることについて触れるにとどまっていた。他方、右確認書の内容は数行にわたり、「私は、貴社作成のワラント取引についての説明書の内容を理解し、私自身の判断と責任においてワラント取引を行うことを確認します。」と明確に記載されていた。

(3) その後、原告は、Dから勧誘を受けて京セラワラント、西華産業ワラント、日本電装ワラント、東洋サッシワラントをF名義で購入し、いずれも後に売却して利益を得た。

(三) Eの担当したワラント取引

(1) 被告における原告の担当者は、平成元年七月ころ、DからEに代わった。Eは、平成元年七月二五日、原告に対し、電話でニチイの業績、株価、ニチイワラントの購入価格等を伝え、購入を勧めた。原告はニチイワラントが値上がりするか否かにつきEの説明を聞いて慎重に検討したうえ、同日、右ワラントを金一一四万二四〇〇円(単価三二ポイント)で購入した。原告は、平成元年九月二二日に右ワラントを金一二三万六九二一円(単価三四・五ポイント)で売却し、金九万四五二一円の利益を得た。

(2) その後も、主としてEが原告に対して有望と思われる銘柄を勧め、原告がこれを検討して購入するかどうかを決めるという形でワラント取引が行われたが、逆に原告が特に新発物が欲しいとEに要求することもあった。

(3) 被告は、平成元年一〇月中旬ころにワラント顧客に対し、外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書(乙六、以下「取引説明書」という。)を一斉に郵送し、原告も直接又はFを介してこれを受領したが、目を通すことはしなかった。取引説明書には、ワラントの特徴と権利行使期間経過後はその価値を失うことなどのリスクが簡潔に分かりやすく、かつ、要点に下線付きで記載されている。

(4) Eは、平成元年一二月ころ、原告に対し、トヨタワラントの購入を勧めた。当時、トヨタの株価は金二六〇〇円程度であり、権利行使期限は平成五年六月一日、権利行使価格は金二六五五・二円であったが、Eがトヨタの株価が上昇傾向にあることを原告に説明したところ、原告はEの勧誘に応じ、同月二五日、トヨタワラントをF名義で金一五三万七七八七円(単価二一・五ポイント)で購入した。

Eは、平成二年三月ころ、原告に対し、新発物として長瀬産業ワラントの購入を勧めた。当時、長瀬産業の株価は金一四二〇円程度であり、権利行使期限は平成六年二月二三日、権利行使価格は金一六一〇円であったが、Eは原告に対して右ワラントにつき株価が権利行使価格よりも安いが、内容は悪くはない旨説明し、原告は新発物であることもあって、同月八日、長瀬産業ワラントをF名義で金一六五万八八〇〇円(単価二二ポイント)で購入した。

原告は、これらのワラントのほか、別紙「ワラント取引状況」記載のとおりワラントをF名義で購入した。

(5) 被告は、原告がワラントを購入したときは、原告に対し、ワラントの預り証(甲E一~五)を交付していた。ワラントの預り証の銘柄・摘要の欄には、銘柄名の後に「WR」の記載があり、数量・金額欄の単位は「USドル」であり、また、欄外に権利行使最終日の記載があった。

他方、株券の預り証(乙E五一の1、3)においては、銘柄・摘要の欄には銘柄名のみが記載されており、数量・金額欄の単位は「株」である。また、転換社債の預り証(乙E五一の2)の銘柄・摘要の欄には、銘柄名の後に「CB」の記載があり、数量・金額欄の単位は「千円」である。

原告は、ワラントに関しては、証券会社に対して本券の出庫を求めることはなく、預り証のまま家で保管していた。

(6) 株価は全体的に平成元年末に最高値を付け、平成二年に入ってからは値下がりし始め、それに伴ってワラント価格も下落し始めた。原告は、右のような状況を見て、平成二年三月一二日以降、被告においても他の証券会社においても新たにワラントを購入しなくなり、ワラント以外の取引も以前ほどは行わなくなった。しかし、原告は、それ以降も被告に対して手持ちのワラントの価格等について電話で問い合わせることがあり、また、従前どおり被告神戸支店を訪れていたので、株価やワラントの価格等の情報は入手していた。Eは、値下がりしている各ワラントについて売却を勧めたが、原告はもう少し様子を見たいと言って売却しなかった。

それ以降も、本件ワラントのうち、トヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント及び長瀬産業ワラントの価格はいずれも回復せず、結局これらのワラントは売却することができないまま権利行使期間が経過した。

(四) 他の証券会社とのワラント取引

(1) 原告は、岡三証券において、平成元年三月三〇日から平成二年一月一一日までの間、合計二八銘柄のワラント取引を行い、金一〇七九万〇四三五円の利益を得た一方、金三七二一万三五八六円の損失を被り、結局金二六四二万三一五一円の取引差損を被った。

原告は、岡三証券においてワラント取引を行っていた際にも、ワラントの取引説明書を受領し、確認書を提出していた。また、原告は、岡三証券において各ワラントを購入した数日後、岡三証券から銘柄欄に「ワラント」との記載がある預り証を受領していた。

(2) 原告は、コスモ証券においても、平成元年四月二一日から平成二年五月一日までの間、合計七銘柄のワラント取引を行い、金六一万七一五六円の利益を得た一方、金二九七万七八〇〇円の損失を被り、結局金二三六万〇六四四円の取引差損を被った。

原告は、コスモ証券においてワラント取引を行っていた際にも、ワラントの取引説明書を受領し、確認書を提出していた。また、原告は、コスモ証券において各ワラントを購入した数日後、コスモ証券から銘柄欄に「WRT」又は「ワラント」との記載があり、権利行使期限の記載もある預り証を受領していた。

2  当事者の供述等について

(一) 原告の供述

(1) 原告は、被告からワラントのパンフレット又は取引説明書を受け取ったことはなく、本件訴訟提起後に初めて見たと供述する。

しかしながら、前記のとおり、原告は、平成元年五月二二日付けで自ら署名押印した確認書を被告に対して提出しているところ、右確認書には、前記のとおり三行しか記載がなく、その中で説明書を理解した旨が記載されていることからすると、右確認書を提出した時点では、原告はワラントのパンフレットの交付を受けていたと推認することができる。

また、前記のとおり、被告においては平成元年一〇月中旬ころ、ワラント顧客に対し取引説明書を一斉に郵送していることからすれば、原告にのみ取引説明書が郵送されなかったとは考え難い。

そうすると、ワラントのパンフレット又は取引説明書を受け取ったことはない旨の原告の右供述はそのまま信用することができない。

(2) また、原告は、被告においてワラント取引を開始した際、Iからワラントの説明を受けたことはなく、本件ワラントはいずれも普通の株式であると考えていたのであり、本件訴訟提起後に至るまでワラントという言葉を聞いたこともないと供述する。

しかしながら、(1) 前記のとおり原告が週に一、二回被告神戸支店を訪れ、他の証券会社にも訪れることも多かったことからすると、原告が証券取引に対してかなり積極的な姿勢を有していたことが窺われ(原告は、被告神戸支店を訪れた際はカウンターにいる女性従業員と世間話をするだけで、株価等の話は全くしなかったと供述するが、これに反する証人C、同D及び同Eの供述に照らし、にわかに措信し難い。)、全く説明を受けずに未知の商品であるワラントを購入するとは考え難いこと、(2) 前記のとおり、原告は、昭和六三年から平成二年までの間に、被告において合計二一回にわたりワラントを購入したほか、岡三証券において合計二八回にわたり、コスモ証券においても合計七回にわたりワラントを購入していること、(3) 前記のとおり、原告は、被告において最初にワラント取引を行った時点より後ではあるものの、平成元年五月二二日及び同年一〇月中旬には被告からワラントに関する取引説明書の交付を受けていること、(4) それに先立つワラント取引においても、C及びDが原告に対してワラントであることの説明を全くしていないとは考えられず、これを秘匿して株式であると告げなければならない特段の理由は見当たらないこと、(5) 被告においては、ワラントを購入すると預り証が交付されるが、ワラントの預り証には、「WR」との記載や権利行使最終日の記載があり、数量・金額がUSドルで記載されていること(甲E一~五)などからすると、その券面を見れば株式と異なる商品を購入したと認識するのが通常であること、(6) 前記のとおり、原告は、通常の株式等についてはほとんどの場合、預り証を受け取ると本券に換えていたが、ワラントについてはすべて預り証のまま保管し、本券の交付を求めなかったのであり、この事実からすると、原告は株式とワラントの区別を認識して取扱いを異にしていたものと考えられること、(7) 証人C、同D及び同Eが原告に対してワラントに関する説明を行ったと明確に供述していることなどに照らして考えると、ワラントを株式と認識していた旨の原告の右供述は採用することができない。

(三) 被告担当者の供述

(1) 証人Cは、原告に対し、勉強会で使った社内資料を示しながら、ワラントの一般的な商品内容、ワラント価格が株価と連動して上下するが上下幅は株価より大きいことのほか、権利行使期限があること、これを過ぎると無価値となること、権利行使期限が近付くと価値が下がっていくことなどにつき図を書くなどして説明したと供述する。

しかし、前記のとおり、平成二年一月以降、株式相場の下落とともにワラントの価格が下落した際、Eが売却を勧めたにもかかわらず、原告がそのうち価格が回復すると考えてトヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント及び長瀬産業ワラントを売却せず保有していたことからすると、原告が、本件ワラントを購入したころワラントが権利行使期間経過後に無価値になることを果たして理解していたのかどうか疑問である。また、前記のとおりCが顧客にワラントを購入させたのは、原告に対しての一回のみであり、それから右供述をするまでに一二年が経過していることに照らすと、Cが原告に対して行ったワラントに関する説明の内容を同人の供述するとおり詳細かつ具体的に記憶しているとは考え難い。そして、Cが原告に対してワラントに関し前記のような説明をしたとの供述を裏付けるに足りる証拠はない。

したがって、証人Cの右供述はこれをそのまま信用することはできない。

(2) また、証人Dは、平成元年五月ころ、原告が新発ワラントを希望した際、伊藤ハムワラントで苦労したので、もう一度ワラントの危険性を認識してもらうため、ワラントのパンフレット(乙五)を渡し、それを使ってワラントの危険性を説明したが、そのときは具体的な銘柄を勧めなかったと供述する。

しかしながら、右供述は、説明した日時、場所、態様等が特定されておらず、具体性に欠けるし、原告が新発ワラントの購入を希望したのに対してDがワラントの危険性を指摘するにとどまり、具体的な銘柄を勧めなかったという点は、営業担当者の立場からみて、いかにも不自然というべきであり、直ちに採用することができない。

(3) 証人Eは、原告に対し、平成元年七月二五日に電話でニチイワラントを勧誘した際、ワラントの商品性をよく理解しているか確かめる意味で、もう一度ワラントの意義、株式と比べて少ない払込額で大きく儲かる可能性があること、権利行使期限を過ぎると無価値になること及び外貨建てワラントについては相対売買になることを詳細に説明したと主張する。

しかしながら、原告はC及びDが担当者であったころに既に七銘柄のワラント取引の経験があったこと、証人Eは右説明に対し原告が「初めてじゃないんでそんなことは分かっている。」と言ったと供述しているところ、そのような態度の原告に対してEが右のような詳細な説明を改めて行ったとは考え難いというべきであり、証人Eの右供述は直ちに採用することができない。

四  本件具体的勧誘行為の違法性の有無(争点2)について

1  自己責任原則と証券会社の義務

(一) 証券取引は、本来危険を伴うものであって、証券会社が投資者に提供する情報も将来の経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含み、予測や見通しの域を出ないのが実情であるから、投資者は、右のような情報を参考にしつつも自ら投資判断に必要な情報を収集し、自らの判断と責任において証券取引を行うのが原則であり、このことはワラント取引においても妥当する。

(二) しかしながら、証券会社は、公的な免許を受けて証券業を営む者であって、証券取引及び当該商品に関する高度の専門的知識、豊富な経験、証券発行会社の業績や財務状況等の情報、それらに基づく優れた分析、判断力を有するのみならず、政治、経済情勢等、あらゆる面において情報的優位にあり、それ故に多数の一般投資家は、証券会社の推奨、助言等にはそれなりの合理性があるものと信頼して証券市場に参加し、その信頼を保護することにより市場秩序が維持されているという現在の状況下では、前記ワラントの特質にかんがみ、証券会社は、具体的にワラント取引を勧誘するに際して、顧客がその危険性について的確な認識形成を行い自己の判断と責任で取引し得る状態を確保するための配慮義務を負うことがあり、これに反した勧誘行為は違法と評価されることがあるというべきである。

2  適合性の原則違反の有無について

(一) 証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、証券取引法や公正慣習規則等が、証券会社に対し、顧客に対する投資勧誘に際しては、顧客の投資経験、意向及び資力等に最も適合した取引がなされるよう配慮することを要請していることからすると、証券会社又はその従業員が行った顧客への投資勧誘が、当該投資者の投資意向ないし目的に明らかに反し、投資経験、資産等に照らし明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものである場合には、当該勧誘行為は違法なものというべきである。

(二) 原告は、前記のとおり、昭和三八年ころにコスモ証券と、昭和四七年ころに被告と、昭和六〇年ころに岡三証券と証券取引を開始し、自己名義のほか一〇人近くの親族名義でも株式、投資信託及び転換社債等の証券取引を頻繁に行っていたこと、昭和四〇年前後の信用取引を巡るトラブルにより、ハイリスク、ハイリターンな商品の危険性を十分理解していたこと、平成元年当時、被告に対して約金二〇〇〇万円、コスモ証券に対して約金一億円を預託していたこと、週に二、三回は被告神戸支店及び大和証券神戸支店を訪れるなど、証券取引に対する積極的な姿勢が窺えることなどからして、C、D及びEの本件勧誘行為を、原告の投資意向ないし目的に反し、かつ、原告の投資経験、資産に照らして過大な危険を伴う取引への勧誘と評価することはできず、適合性の原則に反して違法であるということはできない。

3  説明義務違反の有無について

(一) 前記のとおり、ワラントは、比較的新しい金融商品で、その仕組みも複雑であるうえ、ハイリスク、ハイリターンという特徴や権利行使期間経過後は無価値になるという危険性を有すること、証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、公正慣習規則等の日本証券業協会の自主規制においても、証券会社がワラント取引をする際には、顧客に対して予め説明書を交付し、取引内容や危険性について十分説明し、自己の判断と責任において当該取引を行う旨を理解させ、確認を得るように要請されていることからすると、顧客が的確な認識形成をした上で投資決定するための前提として、証券会社あるいはその従業員は、ワラント取引に際し、顧客の年齢、職業、投資経験、能力、資産状況等に応じて、ワラントの特徴、仕組み及び危険性についての説明をする義務の生ずる場合があるというべきであり、これに違反する勧誘行為は私法上違法となるというべきである。

(二) 原告は、長年専業主婦として生活してきたものであり、本件ワラント取引当時七七、八歳と高齢であったのであるから、Cは、原告をワラント取引に勧誘する際にはワラントの危険性等につき特に念入りに説明する必要があったというべきであり、また、その後原告にワラントを勧誘したD及びEも、初めて原告にワラントを勧める際には、原告がワラントについて自ら投資するか否かを決定をしうる程度の認識を有しているか否かを確かめ、それが十分でないと窺える場合には、改めてワラントについて説明する必要があったというべきである。

したがって、Cとしては、原告が本件ワラント取引を開始するに際し、ワラントの価格は株価と連動するが株価の数倍の値動きをすること及び権利行使期間経過後は無価値になることの二点を中心に、ワラントの仕組み、特徴、危険性等について十分に説明し、また、D及びEとしては、原告が右各事項について相応の認識を有しているか否かを確かめたうえ、それが十分でない場合には、理解できるように改めて詳細かつ具体的に説明する必要があったというべきである。

しかるに、前記認定のとおり、Cは、本件ワラント取引に際し、原告に対して新商品であるワラントの有利性を中心に説明し、ワラントが権利行使期間経過後は無価値になることなどの危険性について原告が認識できる程度に十分に説明することなく、この説明不足のために原告は、ワラントについての危険性を十分理解できないままに本件ワラント取引を開始するに至ったと解すべきである。

また、D及びEは、原告が被告において既にワラント取引を行っていたことから、原告が十分な知識を有していると軽信し、原告がワラントが権利行使期間後は無価値になることなどの危険性について十分に理解しているか確認することなく、また、右点につき改めて説明して注意喚起することもなかったのであり、この説明不足のために、原告は右点について理解できないままに被告において合計二一銘柄のワラント取引を行うに至ったと解すべきである。

4  以上によれば、C、D及びEは、いずれも原告を本件ワラント取引に勧誘するに当たって、証券会社の従業員として尽くすべき説明義務に違反したというべきであり、右勧誘行為は不法行為を構成するというべきである(なお、D及びEが原告に対してワラントの勧誘の際に断定的判断を提供したことを認めるに足りる証拠はなく、また、前記認定したところによると、C、D及びEが原告に無断でワラントを購入したとは認められず、また、同人らは、個別のワラントについて適宜価格等の情報の提供及び助言を行っていたことが認められ、右助言が明らかに適切でなかったことを裏付ける証拠はない。)。

したがって、被告は、民法七一五条一項、七〇九条に基づき、右不法行為により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

五  消滅時効の成否(争点3)について

(一)  前記のとおり、伊藤ハムワラント①及び②の取引は、原告に無断で行われたものではなく、原告が自己の判断により行ったものと認められる。そうすると、原告は、被告に対し、遅くとも本訴を提起した平成五年三月一二日には、不法行為に基づき伊藤ハムワラント①及び②の取引について損害賠償を請求することが可能であったということができる。しかるに、右時点から三年以上が経過した平成一〇年二月二〇日の本件口頭弁論期日に至るまで、原告が被告に対して伊藤ハムワラント①及び②の取引について損害賠償を請求したという事実は認められない。

よって、被告が平成一〇年三月二〇日の本件口頭弁論期日において右時効を援用したことにより、伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権は、時効(民法七二四条前段)により消滅していると解すべきである。

(二)  原告は、被告が平成五年九月七日の本件口頭弁論期日に陳述した同日付け準備書面において伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債務を承認したと評価しうると主張するが、被告は右準備書面において原告の被告におけるワラントの取引状況を主張したにとどまり、それ以上に被告が原告に対して右損害賠償債務の存在を認識したうえ、これを承認したとまで解することはできない。

(三)  また、原告は、被告による右消滅時効の援用は権利濫用に該当すると主張するが、本件全証拠によっても、被告による消滅時効の援用が権利濫用に該当することを基礎付ける事情を認めることはできない。

六  原告の損害(争点4)について

1  損害額の基礎

前記認定事実によれば、原告は、昭和六一年に被告において初めてワラントを購入するに先立ち、被告担当者から十分な説明を受けておらず、その後の平成元年以降のワラント取引の際にも、原告が従前被告においてワラント取引をしていたことからワラントにつき改めて十分な説明を受けなかったというのであるから、本件ワラント取引は、すべて昭和六一年の被告担当者の不十分な説明による勧誘を契機として始まった一連のワラント取引ということができる。

そして、原告は、本件ワラント取引のうち伊藤ハムワラント①及び②、トヨタワラント、昭和アルミワラント、阪和興業ワラント、鈴木自動車ワラント並びに長瀬産業ワラントの取引により合計金一一一八万九六四七円の損害を被ったが、他方でそれ以外の銘柄のワラントの取引により、合計金二一四万二五一〇円の利益を得ていることが認められるから、原告が一連の取引である本件ワラント取引により被った損害額を算定するに際しては、原告が得た右利益を考慮し、損益相殺をなすべきである。

もっとも、前記のとおり、伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権が時効消滅していることから、右損害賠償債権の時効消滅と損益相殺との関係をいかに解するかが問題となる。

(一) 原告は、民法五〇八条を援用し、時効消滅した伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権(金三六二万六七一一円)と原告が得た利益(金二一四万二五一〇円)との間で相殺勘定がなされるべきであると主張する。

しかしながら、前記のとおり本件ワラント取引は一連の取引と解すべきところ、本件ワラント取引において原告が得た利益について、伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権のみとの間で相殺勘定がなされるべきとする根拠が明らかでなく、原告の右主張によれば、被告の犠牲において原告を不当に利する結果となり、不合理である。また、本件ワラント取引において原告の得た利益が原告の受働債権とはなり得ないのはもとより、これと原告の被告に対する伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権が相殺適状に立つ関係にはないことも明らかであるから、民法五〇八条を援用すべきとの原告の右主張を採用することはできない。

(二) 他方、被告は、本件ワラント取引により原告が被った損害額から、まず時効消滅した伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権を全額控除し、その後、残額の損害賠償債権につき原告が得た利益を考慮して損益相殺をすべきと主張する。

しかしながら、前記のとおり本件ワラント取引は一連の取引と解すべきところ、被告の右主張によれば、本件ワラント取引により生じた原告の損害賠償債権のうち、伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権についてのみ原告の得た利益を全く考慮することなく、損益相殺の埒外に置くことになるが、かくては、原告の犠牲において被告を不当に利する結果となり、これを合理的に説明することができない。

したがって、被告の右主張も採用することができない。

(三) 以上のとおり、原告の主張、被告の主張のいずれも採用することができないところ、損害賠償法を支配する衡平の原理に照らして判断するに、時効消滅した伊藤ハムワラント①及び②の取引についての損害賠償債権及びその余の本件ワラント取引から生じた損害賠償債権のいずれについても、原告が得た利益を考慮し、損益相殺を行うのが相当であり、そして、本件ワラント取引による損害のうち原告が請求しうる額は、左記の計算式により算出した金六一一万円とするのが相当である。

11189647-3626711-2142510×(11189647-3626711)/11189647=6114842

損害全体-伊藤ハムワラント①及び②の取引による損害-利益×(損害全体-伊藤ハムワラント①及び②の取引による損害)/損害全体

2  過失相殺

(一) 前述のとおり、C、D及びEの勧誘行為は権利行使期間経過後は無価値になるという重要事項の説明が不十分である点において違法なものではあるが、他方、C、D及びEがことさらに欺罔的手法や断定的判断の提供等を用いたとは認められないこと、右権利行使期間経過後は無価値になるという点を除いて口頭で相当程度の説明をしていること、本件ワラント取引の早期の段階でワラントのパンフレット及び取引説明書を交付して原告が自ら検討する機会を与えていたことなどを考慮すれば、その過失ないし違法性の程度はさほど大きくはなかったものというべきである。

(二) 原告の過失及びその程度

本件ワラント取引についても自己責任原則が妥当するところ、(1) 原告は、本件ワラント取引を開始するに際し、Cから不十分であったとはいえ、ワラントの価格は株価と比べて上下幅が大きいことなどについて告げられていたのであるから、ワラントの危険性について関心を持ち、適宜質問をしたり、他の方法で調査するなどすべきであったのに、漫然とこれを怠ったこと、(2) 原告は、本件ワラント取引開始後ではあるが、Dから、権利行使期間経過後は無価値になることなどのワラントの特徴及び危険性について、よく読めば理解することが可能であるワラントのパンフレットの交付を受け、さらに、その後、被告から、右特徴及び危険性につき一読すれば誰しも理解できるように分かりやすく記載してある取引説明書の交付を受けたのに、その内容を検討することなく放置したこと、(3) 原告は、被告からワラントを購入した後、権利行使最終日が記載された預り証を受け取ったのであるから、権利行使期限の存在を認識することはできたはずであり、その意味をC、D及びEに質問するなどすべきであったのに、記載内容を検討することなく放置したこと、(4) 原告は、被告以外の証券会社でも多数回にわたりワラント取引を行っており、その過程でも取引説明書や預り証の交付を受けていたが、これらの記載内容を検討することなく放置したことが認められる。

そして、原告の右各過失行為の内容に加え、原告は前示のとおり、昭和三八年以来の長年かつ多数回の証券取引経験から相応の知識、能力を有し、昭和四〇年前後には信用取引を巡るトラブルによりハイリスク、ハイリターンな商品の危険性を十分認識していたうえ、昭和六二年から平成二年の四年間に被告を含む証券会社三社において、合計九億円を上回る株式、投資信託、転換社債及びワラントを購入し、週に二、三回は被告神戸支店及びコスモ証券神戸支店を訪れて証券取引に関する情報を入手するなど積極的に証券取引を行っていたことが認められるのであるから、原告としては、わずかの注意、努力を払うことにより容易にワラントの危険性の大きさを知り得ることができ、それにより本件損害の発生の防止又は本件損害の拡大の回避が可能であったと認めるのが相当であるから、その過失の程度は大きいものというべきである。

(三) 前記(第三の三)において認定した事実のほかに、右認定の諸事情(C、D及びEの過失が大きいものでない反面、本件ワラント取引における損害の発生、拡大につき原告にも相当程度の過失があったこと)をも考慮すると、過失相殺として、本件ワラント取引により原告が被った損害のうち八割程度を減ずるのが相当である。

3  よって、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、金一二二万円とするのが相当である。

六  結語

よって、原告の請求は金一二二万円及びこれに対する不法行為後である平成五年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村雅司 裁判官 宮﨑朋紀 裁判官徳田園恵は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松村雅司)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例